抄録
症例は再生不良性貧血の診断で昭和56年3月より入院中の59才男子である. 同年7月26日外泊中に全身倦怠感, 悪寒, 頭痛を訴えて帰院した. 帰院後39-40℃台の発熱が続き, 下痢と腹痛, 腹部膨満感を訴えたため, 腹腔内出血と感染症が疑われた. 帰院11時間後より血圧が下降しショック状態となり諸治療にもかかわらず, 20時間目に呼吸停止, 心停止をきたし, 上半身から全身におよぶ強直性痙攣を繰り返して23時間後に死亡した. 死亡前に施行した静脈血培養でVibrio vulnificusが検出されたため, 本菌による敗血症が死亡の原因と考えられた. 患者には再生不良性貧血に対する輸血によって鉄過剰症があったことがこのように激烈な経過をとった宿主側の要因と考えられた. 分離菌の検索では, グラム陰性の桿菌で極鞭毛を有し運動性(+), oxidase(+), ONPG(+), lactose(+), sucrose(-), 食塩耐性試験0%(-), 6%(+), 7%(-), 神奈川現象(-)など典型的なV.vulnificusの性状を示した.