Journal of UOEH
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アメリカにおける産業医学への取り組み方の革新
エドワード P. ラドフォード
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1986 年 8 巻 1 号 p. 1-9

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抄録
労働による健康問題の対応は概して病気の発生への対応と密接に関連しており, これらはまた, 中世以来大変ゆっくりと変化してきた. 西欧では19世紀まで病気は神に背いたことに対する罰として考えられたり, また不運の結果であると考えられた. 確かにこのような考え方は, 病原体説がでてきて, 病気を予防する方法が十分理解されても, 水, 食物, 空気によって感染する病気の予防がゆっくりとしか進まない一つの要因であった. 今日では, 長い期間かかって起こる慢性の変性疾患や癌に焦点があてられているが, これらの疾患に対する予防へのアプローチも同様にゆっくりとしか進んでいない. 米国は今世紀急激に労働力を外国から入れている比較的若い国であるために, 職業による傷害や疾病の問題はほとんど認識されてきてなかったし, 企業に働く医師や看護婦は従来のへルスケアの技法にしか関心を向けていなかった. しかしながら, 米国では最近少なくとも一般の人々は, 疾病予防の重要性を認識する方向へ変化しつつある. 仕事に関係した健康防害については, 産業活動によって起こる労働者や一般住民に対する健康障害を発見する責任を雇用者に課する法律ができて, この認識が急速に高まってきた. おかしなことに, 1970年の労働安全衛生法は1977年の有害物質規制法がでて職業病の認識の変化をもたらすのにあまり有効でなくなってきている. 新しい化学物質の重大な健康影響が一般に知れわたった結果, 一般大衆やその代表者が, このような変化をもたらすことに先導役を果している. 一般に労働者の保護は企業の経済的な生存能力と相反すると言われているために, 職業病や仕事上の傷害への対応の変化は遅々としている, しかしながら, 少なくとも大企業では, 経営者は莫大な補償による損失の重大性を認識しており, また産業保健の専門家の役割がより一層重要になりつつある. 社会的, 政治的また経済的な力によって, 今なお職業病や仕事上の傷害の予防や職業病の原因についての知識の現場への応用が遅らされている.
(吉村健清教授訳)

(この内容は1985年10月15日に行われた第97回産業医科大学公開講座における講演に基づくものである.)
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© 1986 産業医科大学
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