Journal of UOEH
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医師・患者関係の人間学的考察
伊藤 幸郎
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1986 年 8 巻 1 号 p. 101-113

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抄録
医師・患者関係の考察は医の倫理の中心課題である. 病める患者を前にした臨床医の内面からこれを反省するとき, 自らの素顔と仮面, 人間性と科学性の二元論的分裂が意識されて割り切れない思いがする. また, 人間愛に徹しようとしても, 他人の痛みは原理的に感ずることができず, 患者と深い交流をもって共感すれば自ら傷つき, 適確な診療に差し支える. 現実に可能な人間愛の限界は患者との間に一定の距離をおいた友愛(philia)である. 次に, 外に向って医師と患者の社会的関係についてアメリカの現状を眺めると, 昔からの医師優位の伝統は崩壊しつつあり, 今や患者の権利が不動のものとなっている. わが国でも患者の権利宣言案が公表されたが, 甘えの構造を基調とする今の日本社会に欧米で支配的な風潮を直輸入するのはなお時期尚早である. 理想的には, 医師と患者とがお互いの個性を尊重し合った大人同志の関係になるのが望ましい.
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© 1986 産業医科大学
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