住宅総合研究財団研究年報
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近世「町」共同体における都市居住システムに関する研究(1)
谷 直樹伊東 宗裕内田 九州男鎌田 道隆多治見 左近増井 正哉
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1990 年 16 巻 p. 67-78

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抄録

 本研究は,近世における「町」共同体の空間構造と社会構造を解明し,わが国の風土や伝統の中で育まれてきた都市居住のシステムを描き出すことを課題とするものである。近世の町人地においては,高密度居住ながら比較的成熟した都市生活が営まれていたが,それは近世「町」共同体に代表される空間構造と社会構造によって支えられていた。本研究はこうした都市居住システムを,京都・大阪・奈良の3都市に求め,住宅・都市生活・居住地経営・居住地管埋などの側面から多角的に検討しようとするものである。研究の方法は史料研究を基礎としつつ実地調査を併用している。まず近世都市に関する史料の中から本研究の課題に即して多数の史料を収集し,それを都市居住の観点から整理した。史料数は「町定」約120点,「水帳絵図」約100点,「町触」約400点,証文類約300点など1000点に達する。また具体的な空間と関連させて史料を検討するため,入手史料との対応を考慮しつつ,遺構の現地調査も行ない,近世の地割り,町並み,建築状況の参考とした。つぎに3都市の個別「町」のモデルとして,京都の山鉾町,大阪の船場,奈良の奈良町を取り上げ,居住システムを報告した。いずれの都市においても「町」共同体による自治的な運営が行なわれ,居住地の生活管理や空間の維待管理が有機的に運用されるシステムが整備されていた。こうした住民による自律的な居住地管理は日本の都市史上注目すべき歴史的事実であると考える。一方で3都市の居住システムには微妙な差異をみせるが,その背景には3都市の「町」共同体の成立事情や人口構成などが介在していることを思わせる。本年度は3都市の都市居住システムについて個別の「町」の概略を紹介し,簡単な比較を試みたが,次年度では,分類項目を横断的・編年的に相互比較して,近世「町」共同体における都市居住システムの全体像を明らかにしたい。

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© 1990 一般財団法人 住総研
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