住宅総合研究財団研究年報
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大都市民間高齢者賃貸住宅の公的管埋に関する調査研究(2)
広原 盛明垂水 英司神谷 東輝雄中川 達哉間野 博山本 善積
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1991 年 17 巻 p. 157-170

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抄録
 1960年代の高度経済成長期に,地方出身青年のための安上がりの「就職用受け皿住宅」として,大阪衛星都市で爆発的に形成された木賃アパート地域は,いま歴史的ともいえる大きな転換期を迎えている。1つは建物の著しい老朽化に伴う地域全体のブライト化,1つは老朽木賃アパートの高齢者世帯の沈殿とりわけ独居老人の集住傾向が最近になって一段と加速化され,いわば「建物」と「人」の両面から高齢化が進んでいるからである。しかしその一方,木貸アパート地域は高齢者世帯にとって「住みやすい所」でもある。交通が便利で何処へでも気軽に行ける,周辺一帯で日常生活に必要なものは何でもそろう,比較的近くに子供や身内がいるので淋しくない,そして何よりも物価や家賃が安い。その意味で,木賃アパートは確かに建物としては「最低水準以下住宅」であるとしても,低所得層の高齢者世帯にとっては手頃な「アフォーダブル・ハウジング」であり,周辺地域は住み慣れた「コミュニティ」なのである。本研究は,大都市の高齢者世帯集住地域として,最初に神戸市真野地区に代表されるインナーエリアの長屋密集地域を取り上げ(研究8809),次にフリンジエリアに当たる大阪衛星都市の木賃アパート地域を調査した(研究8908)。その結果共通して指摘できることは,両地域は物的環境改善を至上命題とする都市計画視点からは問題視されるブライト地域であっても,高齢者世帯の生活安定を願う福祉的観点からは社会的に極めて重要な役割を果たしているという事実である。高齢者住宅政策にはこれらを統一したアプローチが必要であり,とりわけ高齢者世帯の集住する老朽長屋や木賃アパートの改善に当たっては,単なる「建替え事業」にとどまらず,公共団体による「借り上げ住宅化」,家主と居住者の合意を基礎とした「リフォーム補助制度」,高齢者世帯の安定居住を前提とした「家賃補助」の制度化など,多様な「民間高齢者貸賃住宅の公的管理システム」が要求されるのである。
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© 1991 一般財団法人 住総研
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