住宅総合研究財団研究年報
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聴覚的景観からとらえた建築と街なみに関する基礎研究(2)
建築物の性格が都市の聴覚的景観に及ぼす影響に関する基礎研究
鳥越 けい子庄野 泰子田中 直子兼古 勝史
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1991 年 17 巻 p. 187-197

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抄録

 本研究の目的は,「響きとしての建築」「響きとしての街なみ」というコンセプトが成立することを実証することにより,建築および景観の研究領域に聴覚的発想を導入することである。神田地域における各種の5つの道を対象としながら,研究の基礎的な方法論的検討を行なった前年度に対し,今年度は神田周辺の東京の5つの地域,浅草,高円寺,上野,月島,深川に調査対象地域を拡大し,それぞれの地域性を支える上で重要な役割を果たしていると考えられる5つの商店街をケーススタディとしながら,各地区の街なみと建築を聴覚的にとらえ,その実態を分析した。その結果,建築は「物体」としてとらえることができるのと同時に「響き」として聴覚的にも存在することが実証され,その場合,「音響的に存在しない本設建築物」「音響的に存在する本設建築物」「音響的に存在するが本設でない建築物」の3つの存在の様相があることを確認した。更に,商店街の「響きとしての街なみ」の構成要因の考察にあたっては,前年度に確認した「建築物の構造的性格」のほか,履物や舗装面の種類などが関連する「交通」,BGMや宣伝放送などの「放送システム」,縁台や屋台などの「その他のしつらえ」,掛声や商談などの「人の声」の4つが重要な契機として導かれた。本研究全体の主な成果には,1)「響きとしての建築」「響きとしての街なみ」という考え方が成立することを実証し,その実態を具体的に把握しながら聴覚的景観研究のいくつかの方法論を導き,整理したこと,2)建築研究領域への聴覚的発想の導入が,人間の活動とのかかわりなどの建築物のソフトな側面に光をあてながら従来の建築のとらえかたを拡大することを明らかにしたこと,3)「聴覚的景観」という概念が都市研究においてそれぞれの地域のよりトータルな理解をもたらす有効な切り口であることを確認したことなどがある。

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© 1991 一般財団法人 住総研
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