1993 年 19 巻 p. 199-208
第1章,古代依頼ヴィッラは,その所有者の愉しみと安らぎのための田園住宅であり,それは同時に農場経営の拠点でもあったが,享楽の要素の有無が住居としてのヴィッラと農家を本質的に分けてきた。ほかの建築類型では時代の要求によって変化してきたが,ヴィッラはその要求が普遍的で実質的に変化していないことを確認し,第2章は,ヴィッラの復活が都市の復活と密接な関係を持ち,ヴィッラが都市の成長期に興隆し,都市の衰退とともに衰微したこと,したがって,イタリアでは中世末期の都市の復活とともにヴィッラ建設熱は高まり,15世紀以降のヴィッラの復活は,ウィトルウィウスをはじめ,共和制後期から帝政初期のローマの著述を参照することによって成立したことを示し,第3章では,16世紀前半に成立した華麗なヴィッラが,すべてを総合した小宇宙を造形したものだったことを論じた。第4章以下はケーススタディーであり,まずヴェネト地方のヴィッラが,近代の一時期ないがしろにされ,荒廃していたが,近年,調査研究が着実に進められており,一方,ヴィッラの建築群,敷地,周辺との関係,その歴史的変遷などを分析する新たな方法論による研究が行なわれて,風景や環境の中でのヴィッラの価値の再評価が進められ,ヴィッラの修復に対し,補助が出る制度も整っており,ヴィッラの現代的利用も積極的に進められ,さまざまな文化的活動として機能しているヴィッラが少なくない。第5章で,トスカーナ地方における現実の別荘事情について,レスタウロと不動産価値,売買と入手のパターン,機能と利用のされかたの3点から論じ,具体的な様子を明らかにし,第6章は,サン・ミニアート近郊のカサ・コロニ力のレスタウロ(修復)について,実際の計画案づくりに参加して具体的な課題と問題解決について行なったケース・スタディである。