住宅総合研究財団研究年報
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フィリピンの住民主体型住環境整備における専門家中間セクターの役割
自主的な住環境改善を含めた事業後の評価
薬袋 奈美子小菅 寿美子
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ジャーナル オープンアクセス

1999 年 25 巻 p. 1-12

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抄録
 住環境整備では,物理的環境を改善するばかりでなく,精神的環境や社会的環境を含めて検討されることで,住民にとって快適を居住環境が形成されるものと考える。本研究では,住民が住環境整備を行なうために,非営利的な支援を行なう専門家の支援のありかたを考察する。フィリピンにおけるコミュニティ抵当事業では,コミュニティを単位とした自主的な改善が促され,オリジネーターと呼ばれる役割を果たす専門家組織を制度上に位置づけたことで,改善が促進された。 コミュニティ抵当事業は,不法占拠コミュニティに対して,コミュニティが組織化され,将来の改善計画が示された場合に,土地を購入すること等を目的に低利の融資を行なうものである。この融資を経て,各世帯は住宅の改善を漸次行ない,また地区を単位としたインフラの整備も,区画・道路の整備,上水の整備,コミュニティホールの建設といったことが行なわれた。これらの整備において,オリジネーターにあたるNGOでは,直接整備を誘導したのではなく,住環境整備において住民組織が自主的に整備計画を立て,また資金を調達するといったことができるよう,住民同士の対話の促進を支援するといった間接的な支援を行なっていたことが確認された。住民主体の住環境整備実現のためには,専門的な支援をどのように受けるのかを住民自身が選択できるよう,カをつけられるようにすることが重要である。また日本との比較を行ない,今後日本においても,非営利的に住民の住環境整備活動を支援することのできる事業制度の体制が整えられる必要があること等を指摘した。 結論として,住民の活動を各専門分野の専門家として支援する組織とは別に,オリジネート組織と呼べるような,住民が主体的に活動を継続するための,組織化を含めた間接的な住環境整備支援を行なう組織が必要であることを示した。
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© 1999 一般財団法人 住総研
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