抄録
経口投与されたトキソプラズマは, 最初に小腸間膜リンパ節に侵入した. 侵入した原虫は2~7日にわたって各部組織・臓器に拡がり, 10~14日でほぼ全身に分布した. この時期には大便内にオーシストが排泄された. このことから, 本原虫の猫体内における推移には2通り(腸管内の有性生殖を伴なう過程と腸管外の無性生殖の過程)あり, これらは原虫の腸管侵入後同時に進行するものと推察された. 後者の場合, 増殖した原虫はリンパ流や血流によって各部へ伝播されるものと思われた. 腸管に寄生している原虫は侵入後10日頃までは, トリプシン消化により感染力を失なうことがわかり, 本原虫の新しい性質として注目された. シストの経口投与によって惹起される不顕性感染では, 感染後10~14日は1つの起点であると考えられた. 即ち, この期間に抗体が上昇し始め, オーシストの排泄が終了し, さらに腸管からトリプシン抵抗性の虫体が検体されるようになる. またこの時期は症状は出さないが, 原虫が全身に拡がる時期に相当した.