1990 年 52 巻 6 号 p. 1147-1153
ラットの視床下部内側視索前野 (POA) ニューロンの細胞内記録を行なう目的で三角波による微小電極振動装置を試作した。この装置は, 一定の三角波の周波数と電圧をガラス管電極に通電して電極の先端を微細に振動させることによってin vivoでラットのPOAニューロン内に電極を刺入するものである. この装置を用いて視床下部弓状核 (ME) の電気刺激に対してantidromic (AD), orthodromic (OD) またはnon-response (NR) を示すPOAニューロンの細胞内記録を試みた. その結果, 細胞内記録の成功率は144中36細胞で25%と低かった. 更に細胞内記録の可能な時間が短く, 長くて15分, 一般的には数分であった. また今回の実験では予めAD, OD反応またはNRを細胞外記録法によって観察, 同定してから微小電極を細胞内に刺入した. その理由は細胞内記録時にMEを電気刺激した場合, 細胞が死滅してしまう例が多かったからである. これ等の点については本装置を更に改良する必要があるが, 静止電位, 閾値電位, spikeおよびover-shoot等の興奮時膜電位, 陰性および陽性後電位, 後脱分極および脱分極などの活動電位の各要素が観察されたことからラットのPOAニューロンの細胞内記録の可能性が示唆された.