抄録
鳥類は大脳皮質がほとんど発達していないため, 哺乳類とは異なり皮質-脊髄路は見られない. そのため, 網様体-脊髄路は, 赤核-脊髄路, 前庭-脊髄路と共にニワトリでは重要な脊髄への投射路である. この研究では, ニワトリの網様体-脊髄路を哺乳類のそれと比較する目的で, 2種類の逆行性蛍光トレーサー (Fast-Blue : 細胞質を標識, Diamidino-Yellow : 細胞核を標識)をニワトリの腰髄と仙髄に圧注入 (各2μl) を行った. 7日後に, 凍結連続切片 (30μm厚) を作製し, 共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察した. 脳幹から腰髄または仙髄への投射ニューロンの分布は, 橋と延髄では明瞭に異なった. 即ち, 腰髄または仙髄に投射するニューロンは, 延髄では主に経線核, 傍正中網様核, 巨大細胞性網様核などの網様体腹側部に分布し, 背側部にはわずかに観察されたのみであった. 一方, 橋では仙髄に投射するニューロンは, 青斑核, 青斑下核などの橋被蓋の背外側部に多く分布したが, 腰髄に投射するニューロンは, 背外側部より腹内側部にやや多く分布した. しかし, 全体的には脳幹網様体からの脊髄投射ニューロンは,部位により背腹方向に異なる分布様式を示した. この様な鳥類の網様体-脊髄投射ニューロンのdorsoventral organizationは, 哺乳類のそれと基本的には同じであった. また, 腰髄と仙髄の両方に投射する二重投射ニューロンが, 延髄網様体の腹側部と橋被蓋の背外側部に観察された.