本論文は、グローバル企業の開発援助を受けて展開している母親水がめプロジェクトを事例に、中国西部のローカルな水利用のしくみが再編されてゆく過程を明らかにすることを目的とする。母親水がめは、ローカルな技法を生かしながら近代的技術と結合することにより、衛生的で比較的安定した水量を確保することを可能にした。また開発の過程を通じて、これまで発言力を持てなかった女性が、開発の新たな担い手として立ち現れてきた。しかし、天水に依存した水利用のしくみに変化はなく、経費が増大したり個人で管理することが困難になったりするという矛盾がもたらされた。地域社会は、開発を通じて国内の政治化の過程に組み込まれるとともに、グローバル企業の政治化の過程に組み込まれるようになってしまった。ローカルな水が政治化されていく過程で、天水が新たな資源として囲い込まれるようになり、地域にとって持続的ではない利用のしくみが生み出されてしまったのである。