2020 年 46 巻 1 号 p. 30-39
木材防腐・防蟻のために利用される深浸潤処理では,有効成分と共に亜鉛化合物を添加することで,ジチゾン-亜鉛呈色反応を利用して有効成分の浸潤状況が評価されてきた。しかしながら有効成分と亜鉛の浸透・拡散挙動にどのような差違があるのかは解明されていない。本研究では深浸潤処理における両成分の浸透・拡散挙動を個別評価するため,飛行時間形二次イオン質量分析を用いて深浸潤処理されたベイマツ(Pseudotsuga menziesii)KD材およびオウシュウアカマツ(Pinus sylvestris)集成材内部における各成分の分布の可視化を行った。その結果,細胞・組織といったサブミリメートルのスケールにおいて,有効成分は亜鉛化合物よりも広い範囲でより均一に分布していた。同一薬剤中に含まれている両成分は,初期浸透プロセスを共有しているものの,浸潤・乾燥過程における木材中での顕微的な浸透・拡散挙動が異なっており,最終的な分布状況に差違を生じている可能性が示唆された。