2014 年 60 巻 5 号 p. 241-248
木材を最大限引張変形させることを最終的な目標とし,本報告ではヒノキの横引張変形特性を定量的に把握するとともに,横引張変形能を向上させるために重要な因子について検討した。乾燥あるいは飽水状態の異なる年輪傾角の試料を,25℃と80℃の温度で引張試験した。年輪傾角45°の試料は,引張負荷に伴い細胞形状がせん断変形し,他の年輪傾角の試料より大きい破壊ひずみを示した。破壊ひずみは,乾燥状態より飽水状態の方が大きく,また25℃より80℃の方が大きいが,25℃と80℃の破壊ひずみの差は乾燥状態よりも飽水状態で著しかった。つまり,80℃の飽水状態で木材細胞壁の分子運動は活発化しており,外力に対する抵抗性が減少し細胞形状が変形しやすくなるために横引張変形量が増加したと考えられる。以上の結果から,木材の横引張変形能の向上には,細胞形状の変形の容易さと細胞壁の分子運動の活発化が重要な因子であることが示唆された。