木材の樹種を知ることは,木材を利用する上で必要不可欠である。木材の樹種を識別するには,顕微鏡での観察によって木材の解剖学的な特徴を調べることが一般的である。日本における木材解剖学の研究は130年の歴史があり,国産材であればほとんどの樹種が識別できるのが現状である。しかし,この方法による木材の樹種識別では多くの場合植物分類学の属レベルまでにとどまるという限界があり,それ以下の種レベルの識別にはDNA分析や化学成分分析など他の方法を併用する必要がある。また,文化財のように,非破壊で木材の樹種を調べることが求められるケースも増加してきた。本総説では,これまで行われてきた木材の樹種識別に関する研究と近年求められている木材の樹種識別技術に関する研究を紹介し,さらに木材の樹種を調べることの重要性について,違法伐採木材対策や国産材の利用促進などの近年の社会情勢の変化による時代のニーズも含めて概説する。