2010 年 42 巻 1 号 p. 65-78
オーストラリア北部の熱帯地域の海岸に広がるマングローブ林では,巣への捕食圧が高いことが知られている。この地域には,2種のセンニョムシクイ類(ハシブトセンニョムシクイGerygone magnirostris とマングローブセンニョムシクイ G. levigaster)が同所的に生息している。ハシブトセンニョムシクイは主に,暗く生い茂ったマングローブ林内に潮汐によって生じる小川(tidal creek)の周辺に営巣し,マングローブセンニョムシクイはマングローブ林縁の干潟(salt flat)に点在する薮や孤立木に営巣する。近縁な両種は,ともにドーム型の巣を造るが,巣の大きさや色彩,形態が大きく異なる。このような営巣環境の違いと巣の外観の違いは,両種の巣への捕食と関連があるかもしれない 。そこで我々は人工巣を用いて,両種の巣の外観が捕食を避けるために,営巣環境に適応しているのかどうかを検証した。また,捕食者の特定も行なった。本実験より,マングローブセンニョムシクイの人工巣への捕食圧は,主たる営巣場所(salt flat)では,それ以外の営巣場所よりも低い傾向がみられた。一方,ハシブトセンニョムシクイでは営巣環境と捕食率の関連性ははっきりしなかった。これらの結果から,マングローブセンニョムシクイの巣は,主な営巣環境で捕食者の回避において適応的である可能性がある。また,捕食者を1例(キミドリコウライウグイス Oriolus flavocinctus)特定した。