山階鳥類研究所研究報告
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森吉山ブナ林のクマゲラの生態学的研究
利用木の分布及び就塒•採餌行動例
小笠原 〓泉 祐一
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1978 年 10 巻 1-2 号 p. 127-141

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抄録

1.本調査は秋田県北秋田郡森吉町国有林(米内沢事業区第31,33及び34林班)で行った。調査は入山可能な1977年4月上旬から12月中旬までの間に行ったが,クマゲラの利用木調査は10月から11月に4回に分けて,それぞれ4人の調査員によって行った(秋田県自然保護課1977)。
2.営巣木とねぐら木の条件はよく似ており,直立したブナの生立木であって,胸高直径50~100cm,穴までの地上からの高さが8~12m,穴より上に下枝があることと,樹幹表面が平滑で,木がほぼ垂直に立っている。しかし営巣木の巣穴は1個であるのに対し,ねぐら木には2~4個の穴がある点が異っている。
3.本調査により,クマゲラの営巣木と考えられる5本のブナを認めた。この5本のブナは北海道の営巣木の条件(有沢1976)とほぼ一致するものの,今後営巣する可能性のあるものである。
4.北海道のねぐら木の条件(有沢1976)とよく似たものを本調査では,一応ねぐら木とした。ねぐら木は現在雌個体が利用しているブナを含め,7本認めたが,現在使用している以外のねぐら木は現在使用しているかどうかは不明で,今後の調査により,明確にしたい。
5.採餌木は調査地域全体に広く分布し,調査範囲約300haに,ブナ枯木471本(96.3%),ブナ生立木3本(0.6%),サワグルミ枯木8本(1.6%),サワグルミ生立木4本(0.8%),その他3本(0.6%),計489本を確認した。
この値は1ha当り1.63本となり,有沢(1976)による北海道の場合(1.6本/1ha)とほぼ同様であった。採餌木は主にブナであるが,その他サワグルミ,ミズナラ,トチ等でも,その食跡が認められた。
6.10月から12月にかけての調査では,クマゲラ雌個体がねぐらに帰る時刻は,ほぼ16時前後であった。
7.ブナ林内でクマゲラ1羽~2羽で枯木の幹や枯枝或いは地上に横たわる枯木で採食していた。
8.以上のことから,クマゲラはブナ天然林内で,ブナの木をどのように利用しているかを模式的に示した。すなわち,多くのブナの巨木が枯れはじめると採餌木として利用するが,営巣に適したブナに1個の巣穴をほり,営巣する。その営巣木も長期にわたると枯れはじめ,採餌木となるが,その営巣木に,複数の穴をほり,ねぐら木として利用することもありうることを示した(Fig.8)。

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