山階鳥類研究所研究報告
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鳥島のアホウドリについての最近の観察
長谷川 博
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1978 年 10 巻 1-2 号 p. 58-69

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抄録

1.鳥島で繁殖するアホウドリについて,1973/74年期にNHKの武内氏により,また1976/77年期に筆者によって行なわれた調査の結果を詳報した。
2.1973/74年期には少なくとも40卵が産まれたと推測されたが,11羽が巣立っただけで,1976/77年期には約70羽の成鳥が何度となく目撃され,40卵以上が産まれたと推測されたが,わずかに15羽が巣立ったにすぎなかった。1972/73年期にはティッケル氏によって24羽が巣立ったことが確認されていることを考えると,最近巣立ち雛数が減少していると言え,繁殖成功率もかつての約43%から約1/3に低下していると考えられた。
3.かつて東側の営巣地で優占していた丈高のハチジョウススキは丈が低くなり疎らになった。かわって,イソギクが営巣地で優勢になってきている。西側の営巣地の中心部ではアホウドリの踏みつけによって植被がなくなり裸地になっている。そこでは生残していた雛の大部分は植生に近接していた。こうした営巣地における植生の変化が近年の低い繁殖成功性と関係していると考えられた。
4.個体数が多かった時には,アホウドリは平坦な火山灰裸地を選好して営巣していたが,現在のアホウドリ,すなわち,侵蝕•土砂の流出•島上部からの火山灰の降下などに脅かされて急峻な火山灰の斜面の非常に狭い範囲に営巣している彼等にとって,植生の存在は明らかに彼等の繁殖に有利である。適度の量の植生は離着陸の支障とならないばかりか,営巣地を安定させ,強風から雛を守りかつ営巣可能な範囲を拡げる。
5.これらのことと関連して,植物の移殖や施肥,地上性捕食者の撲滅など,繁殖地でのアホウドリの保護問題を考えた。
6.アホウドリの海上集合やクロアシアホウドリの繁殖状況についての観察をも報告した。

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