山階鳥類研究所研究報告
Online ISSN : 1883-3659
Print ISSN : 0044-0183
ISSN-L : 0044-0183
カワラヒワ Carduelis sinica の誇示行動地域からの分散と繁殖期における社会構造
中村 浩志
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 22 巻 1 号 p. 9-55

詳細
抄録

集団誇示行動を通し,秋に番いとなったカワラヒワの標識された個体群を追跡調査することにより,秋以後の分散と繁殖なわばりの確立過程および繁殖期における社会構造についての調査を行った。冬期間の移入と消失はともに小なく,翌年の繁殖個体数は,前年秋の集団誇示行動が終った時点でほぼ決っていた。秋に集団誇示行動域近くに繁殖なわばりを確立しなかった番いは,冬から春先にかけ次々にその地域から去り,そこから離れた場所になわばりを確立した。繁殖なわばりは,先に確立されたものの近くにつくられる傾向があり,集団誇示行動地域近くに早い時期から確立したなわばりは,いくつかが互いに隣接したなわばり群を形成したのに対し,離れた地域に遅く確立されたなわばりは,単独のものもみられた。すなわち,秋に集団誇示行動を通して番いになったメンバーが,翌年の繁殖期にかけて徐々に集団誇示行動地域から分散してゆく過程を通し,繁殖期のルース•コロニーと呼ばれるなわばり分布形態が確立された。秋に確立された番い関係は,番いの相手が死なない限り,翌年の繁殖期の終りまでほぼ維持された。営巣場所は繁殖のたびごとに変えられたが,雛の巣立ちに成功した場合は比較的前の巣の近くに,失敗した場合はより遠くへ移動して繁殖する傾向が認められた。しかし,営巣場所の移動は,それぞれの集団誇示行動地域に近い地域内に限られ,異なったグループの個体がそれにより混じり合うことは少なかった。繁殖期にみられた独身雄は,番い雄の死亡によって独身雌が出現する可能性の高いなわばり群を含んだ地域で活発に囀り,その地域から他の独身雄をしめ出していた。繁殖期の進行に伴ない独身雄の数が多くなると,単独なわばりのある周辺の地域に囀り域を持つ独身雄もみられた。独身雄の密度が最も高い時期にはまた,独身雄が留守の時に囀り域に侵入して囀る,なわばりを持たないより劣位の独身雄もみられた。すなわち,独身雄は順位関係に基づいた雌獲得のためのなわばりを確立していることが明らかにされた。これらの結果に基づいて,カワラヒワの社会構造とその特性に関する論議を行った。

著者関連情報
© 財団法人 山階鳥類研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top