山階鳥類研究所研究報告
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生態系保全のための動物行動の適用
アメリカ•メイン州沿岸で実施した海鳥繁殖地の復興の事例から
Stephen W. Kress
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1997 年 29 巻 1 号 p. 1-26_1

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抄録

野生生物復興計画を成功裡に進めるために,保全生物学者は動物の行動の示す特性をよく理解して復興計画の考案に参画しなければならない。本論文では,キョクアジサシ(Sterna paradisaea),アジサシ(S.hirundo),ベニアジサシ(S.dougallii),ニシツノメドリ(Fratercula arctica),コシジロウミツバメ(Oceanodroma leucorhoa)の集団繁殖地を初めて復興した研究事例を紹介し論ずるものである。これらの復興計画は,集団繁殖する水鳥の二つの基本的かつ一般的ともいえる行動上の特性の,群棲促進性と生地回帰性の利用に根ざしている。
往年には集団繁殖地があり,既に繁殖しなくなっていた島々で,あたかも集団繁殖地が形成されているかのように演出するために,デコイ(鳥型模型)を設置し,録音した音声を流すことによって,水鳥の行動特性の群棲促進性(動物1個体の行動がその所属する群に影響を及ぼすこと)を保全の目的で利用した。群棲促進性を助長するたあのデコイと音声録音の使用は,群棲誘引あるいは社会的吸引ともいえる。水鳥の持つ生地回帰性(若鳥が出生地の繁殖個体群に参入しようとする習性)を,保全を意図して,ニシツノメドリの復興計画に適用した。分布の中心に位置する大繁殖地で生まれたニシツノメドリの雛を,約100年近く前に過度な食用と羽毛採集で絶滅した,分布の南限にあたる,かっての集団繁殖地に移送したのである。往年に繁殖地があった2地点に造成した巣穴で育てられ巣立ったニシツノメドリの幼鳥は,自分が巣立った位置を学習しており,やがて,生地ではなく,既に繁殖しなくなって久しいこの繁殖地に戻ってきた。
セグロカモメとオオカモメが代替占拠したアジサシ類とツノメドリ類の集団繁殖地を復興するために,Eastern Egg岩礁とSeal島国立野生生物保護区ではこれらの大型カモメ類の営巣個体群を減らし,アジサシ類とツノメドリ類の再入植を図った。北米東部のメイン州の真ん中地点の沖合いに点在する幾つかの島で再入植が計画され,そこに設置したデコイと24時間繰り返し流される音声にアジサシ,キョクアジサシ,ベニアジサシは,引きつけられた。1996年までにSeal島国立野生生物保護区はキョクアジサシ956番が繁殖するメイン州最大の繁殖地になり,Eastern Egg岩礁は絶滅危惧種ベニアジサシが126番繁殖する同州最大の集団繁殖地となった。群れを誘引しあう水鳥の習性を利用したこれらの成功と,大型カモメの除去管理だけを行ってアジサシ類の再入植を図れたメイン州Petit Manan島でのアジサシ個体群の復興プロジェクトで得た結果とを次に比較した。このPetit Manan島では,アジサシ類はわずか4年間繁殖を放棄していただけであり,多くの生存個体がこの島での営巣を記憶している状況下にあった。大型カモメ類の除去を始めたその年に,除去後すばやくアジサシ類個体群は再入植したのであった。これに対して,アジサシ類が44年間営巣しなかったEastern Egg岩礁と36年間営巣しなかったSeal島国立野生生物保護区では,大型カモメ駆除と群棲誘引習性を利用したにもかかわらず,アジサシ類を再入植させるために,Eastern Egg岩礁では3年,Seal島国立野生生物保護区では5年もの歳月を要した。この事例は,島での営巣記憶を持つアジサシ類が1羽もいなくても再入植が図れたことをもあわせて示す。
Eastern Egg岩礁とSeal島国立野生生物保護区のニシツノメドリ集団繁殖地は,両島から約1,610km離れたカナダのニューファンドランドから3~40日齢(平均17日齢)の雛を移送して復興した。Eastern Egg岩礁とSeal島国立野生生物保護区には,それぞれ計954羽と950羽の雛が移送された。これらを1羽づつ芝土で造成した巣穴に入れ,最初の1週間は巣穴の入り口を閉めた後は入り口を開け,人が給餌して育てた。雛は標識し,周辺海域に自発的に巣立っていかせた。移送し育てたこれらの雛たちは2歳になると戻り始め,また多くがその後営巣した周辺のニシツノメドリ集団繁殖地に飛来するようになった。Eastern Egg岩礁とSeal島国立野生生物保護区の往年あった営巣地への再入植は,前者では1981年に,後者では1992年に起こった。これは移送の開始以来,ともに8年後にあたる。Eastern Egg岩礁では1981年に4番が営巣し,この岩礁で孵化した雛の参入により1985年までに19番に増加し,この繁殖個体群は現在まで毎年16-19番を維持している。Seal島国立野生生物保護区では,1992年に7番が営巣し1996年には40番に増加している。Seal島でのこの急増は,周辺の集団繁殖地で孵化したニシツノメドリの参入が大きく起因し,1996年までに繁殖鳥の少なくとも68%を占めた。
コシジロウミツバメに新たな集団営巣地を形成させるたあに,録音した同種の音声を繰り返し流し,人工巣穴を設置し,水鳥の群棲誘引習性を利用した。

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