山階鳥類研究所研究報告
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油汚染が鳥類の体に及ぼす影響
梶ヶ谷 博岡 奈理子
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1999 年 31 巻 1 号 p. 16-38

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抄録

油が鳥類の体表面に付着した時と油を摂取した時の影響について,これまで行われた研究の知見を紹介し,論議した。油汚染死した鳥種には偏りがみられるため,本論文では,水鳥を分布域と生活型に基づき整理し,油に被曝しやすい度合いから5群集に区分し,6目6科26属計約100種からなる浅海•沿岸潜水適応型鳥類群集が最も流出油に被曝しやすいことを提示した。羽毛に付着した油は,海鳥の防水能を劣化させ体温の低下を引き起こすが,生体は熱代謝量を増加させ通常の体温を維持しようとする。低温下,終日洋上で着水して過ごす潜水性海鳥グループでは,羽毛の汚染による熱の消耗が極めて大きく,各個体の持つ熱補償力を上回り,熱代謝能の不全が生じる。これが,おそらく海鳥にとって油汚染の最も急性的で,時には致命的影響を及ぼすと考えられている。消化管経由で摂取された油は消化管粘膜からの高張液吸収を阻害し,結果として塩腺からの過剰な塩類排出を減少させる。これは浸透圧バランスと水分出納を悪化させることとなる。消化管から摂取した油成分は肝臓で解毒されるが,解毒が過剰になるとコルチコステロンなどのホルモン代謝へも影響する。その結果,このホルモンと関連する浸透圧調節機構あるいはストレス抵抗性が悪影響を受ける。油汚染を受けた鳥では,自然例でも実験例でも,病理学的変化としては肝臓や脾臓のヘモジデリン沈着,赤血球数の減少,赤血球におけるハインツ体の出現などが認められる。また,油汚染鳥のストレス発現の証左として副腎の腫大,リンパ性器官の萎縮,さらにしばしばコルチコステロンの上昇も報告されている。しかし,ストレスに関連する事柄の解析は難しく,確かな結論は得られていないのが現状である。油が卵や親鳥に及ぼす影響については繁殖率の低下として知られており,卵殻厚減少や産卵率低下,胚死亡率増加,奇形発現などが報告されている。こうした影響は鳥の年齢が若いほど,あるいは胚日齢が若いほど大きい。

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