山階鳥類研究所研究報告
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日本におけるコハクチョウCygnus columbianus bewickiiの集団育雛事例
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2002 年 33 巻 2 号 p. 204-209

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抄録

ハクチョウ(Cygnus)類においては,繁殖地の気候的条件,営巣から育雛までの繁殖期間が長期に渡ることなどの制約により,一腹の卵しか産まないのが普通である。コハクチョウのクラッチサイズは通常3~5卵,まれに2~6卵である。コハクチョウの繁殖のやり直しおよび2回目の繁殖はいずれも記録されていない。コハクチョウの子供は2冬目あるいはそれ以降の冬も数年間は親鳥とともに行動し,数回目の冬を迎えても親鳥と合流することがあるが,このような場合,その年生まれの若鳥とそれ以前に生まれた若鳥との間には,はっきりとした年齢の違いが見られる。大型の水鳥における集団育雛(brood amalgamation)はまれであり,アジアに生息するハクチョウ類では知られておらず,コハクチョウの場合,どの生息地でも確認されたことがない。
2000年11月4日北海道稚内市大沼(45°20'N,142°E)で,12羽の雛を伴っているコハクチョウ成鳥のつがいが発見された。その日の午後は13:00~17:00頃までずっと,12羽の雛は明らかにこの2羽の成鳥とともに行動していた。また,このグループはひとつの家族として,大沼に生息するコハクチョウの中心的な群れとは異なる場所で採餌と休息を行なっていた。
コハクチョウは,ハクチョウ類の中でももっともよく研究されているにもかかわらず,これまでに集団育雛が記録されたことはない。これは,何らかの点で,彼らの生態がこのような行動を抑止,あるいは少なくとも制限しているものと考えられる。したがって,野生コハクチョウのつがいが12羽の雛を伴っているのが観察されたことは例外的である。
これまでに記録のある最大クラッチサイズが6卵であるとするならば,今回の観察は少なくとも,例外的に大きなクラッチ二腹の集団育雛ということになる。しかしながら,同じ場所,同じ年に6羽の雛からなる例外的に大きなクラッチが生まれる可能性はほとんどないので,おそらくこれは三腹あるいはそれ以上の集団育雛であると考えられる。12羽の雛はいずれもその年(2000年)生まれの若い個体で,月齢も近かったが,羽毛の灰色の程度に若干の違いが認められた。これは明らかに彼らが同腹でないことを示すものである。残念なことにこの観察は1日だけのものであるので,今回観察された集団育雛の関係が長期に渡るものであったかどうかは不明である。

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