山階鳥類研究所研究報告
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渡り性オオジュリンと非渡り性ホオジロの排泄物中エストラジオール含有量に対する光周期の影響
伊藤 正則中村 司
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2002 年 34 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

性ステロイドホルモンの生殖腺からの分泌は光周期による影響を受けることは数多くの鳥類において知られている(Wolfson 1945,Farner et al.,1983, Wingfield 1983)。また,排泄物中の性ステロイドホルモンを定量することによって,血液中の性ステロイドホルモンレベルを推定することが可能である(Bishop and Hall 1991)。光周期を徐々に変化させた条件下で渡り鳥であるオオジュリンEmberiza schoeniclusと留鳥であるホオジロEmberiza cioidesを飼育し,雌において性ステロイドホルモンの1つであるエストラジオールの排泄物中含量がどのような変化をするのかを調べた。
オオジュリンとホオジロを山梨県甲府市郊外で捕獲した後,各々を1羽ずつケージに入れ,実験室で飼育した。飼育条件は気温22°C,湿度50%でほぼ一定にし,光周期のみを10時間明期,14時間暗期(LD 10:14)から:LD 15:9まで,1週間に30分ずつ明期を長く,暗期を短く変化させた。そして飼育期間中に両種の雌,3~6個体の排泄物を定期的に採取した。これらの排泄物に一定量の蒸留水を加え,ホモジェナイズし,これを遠心した後,上清をジエチルエーテルで抽出し,この抽出物中のエストラジオールをラジオイムノアッセイにより定量した。
その結果,雌のオオジュリンにおける排泄物中のエストラジオール含量はLD 10:14とLD 11:13では低いレベルであったが,LD 12:12で急激に増加し、高レベルはLD 13:11でも観察された。その後,LD 14:10で急激に減少し,LD 15:9でも低いレベルであった。
ほぼ同様の排泄物中エストラジオール含量の変化が雌のホオジロでも観察された。したがって,オオジュリンとホオジロの両種の雌では,他の鳥類と同様に,卵巣からのエストラジオールの分泌は光周期を短日から長日へ変化することによって上昇することと,長期間の長日処理は生殖腺からのエストラジオールの分泌を低下させることが示唆される。ミヤマシトドZonotrichia leucophrys gambeliiを用いた研究結果(Schwabl & Farner 1989)から示唆されているように,オオジュリンにおいてもエストラジオールは春の渡りに関与していないと考えられる。

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