2002 年 34 巻 1 号 p. 66-72
アジア(ロシア•日本•ラオス)産ハシブトガラスの種内変異(地域変異)について,ミトコンドリア遺伝子チトクロームb(336塩基対)を用いて調査した。塩基配列を基に作成した近隣結合系統樹では,主に4つの地域変異グループ,1)ロシア極東地域-沿海州およびサハリン北部,2)サハリン南部および九州までの日本列島,3)奄美大島,4)ラオス,が得られた。この4つの遺伝子型によるグループは,既報の形態変異によるグループ(亜種分類)とほぼ一致していた。ハシブトガラスにおいては,海峡などによる地理的隔離•島嶼形成が遺伝子流入の妨げにはなっておらず,特に陸続きであるはずのサハリン北部•南部間で明瞭な異なる遺伝子型グループが観察されたことは,両者の個体群形成の歴史が,同じ島でありながら異なることを示唆するものであった。