山階鳥類研究所研究報告
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カシラダカとアオジの渡り適応の比較
黒田 長久
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1964 年 4 巻 2 号 p. 76-90

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抄録

春の渡りで舳倉島灯台に同時に衡死した,シベリアに渡るカシラダカと日本沿岸を移動するアオジについて,渡り適応の差を検討した。カシラダカでは次のような点でそれが高度であった。
1.体重はアオジより重く,それは脂肪量が多いためで,除脂肪体重では両種に殆んど差はなく,全長はアオジが大きいが,尾長を除いた体長や胴長は種差がない。
2.翼長,翼開長はアオジより大きく,尖翼型で翼式が違い,翼差(初列,三列の差)が大である。次列風切部はアオジで幅が広い。
3.翼面積はアオジよりわずかに増大し,アオジでは初列部と次列部は同面積だが,カシラダカでは推進力を出す初列部が大きく次列部はアオジより小さい。
4.平均翼弦長,縦横比などからアオジより翼が細いことが証明され,翼面積荷重は大きく速度を出す飛行に適する。
5.尾は短かく真直ぐで強く凹尾をなし中央が高い。尾面積は小さく尾面積荷重が大きい。これらは空気流動を円滑にし長い飛翔で強い変化風に対処する適応である。アオジではむしろ林内の変化飛翔に適する尾である。
6.竜骨長はわずかに長くなり,上膊骨はアオジと同じだが,尺骨さらに手掌骨と先端部の骨が長く,これがカシラダカの翼型を変化させている。そして各翼羽の長さはあまりアオジと変っていない。但しやや細い。
7.後肢の骨の長さ,太さ,筋量においてアオジより縮小している。
8.脂肪量はアオジの2倍近く多く,掻取り法による量はソックスレー描出法による組織脂肪を含む量の半分弱に当る。
9.肝臟,心臟,肺臟がわずかにアオジより大きい傾向があるがまだ断定はできない。また腸が多少長い。
9.頭部はアオジよりも多少縮小軽減している。
11.材料は石沢式弱フォルマリン保存法(鳥81号)で保存されたもので200日以上を経ても半鮮度を保ったが(第8表),多少の重量誤差は含まれる。

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