山階鳥類研究所研究報告
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エナガの個体群の行動圏構造
II 繁殖期の行動圏とテリトリアリズム
中村 登流
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1972 年 6 巻 5-6 号 p. 424-488

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抄録

1.エナガ(Aegithalos caudatus)の繁殖期の番い行動圏について構造•分布•冬の群れテリトリーとの関係を研究した。調査は1964~1968年の5繁殖期に,本州中部山麓の混合林で行なった。
2.番い行動,活動点の分布,移行行動,たたかい行動,手伝い行動を分析し,繁殖期の番いテリトリアリズムについて考察した。
3.番いは番い群を経て冬の群れから分出して来る。春に番い形成の行動は見られない。番い群の行動圏は冬の群れのそれに入っている。そしてその範囲を共同で防衛している。番いは冬の群れの中にでき,除々に孤立していく。番い行動圏は番い行動と共に冬の群れのそれから分離して来るが,冬の群れの行動圏内に入っている。
4.番いは夜には,共同ねぐらで群れと共に眠る。日中には営巣行動をするが初期には午前中のみで,悪天候には群れに戻る。次第に一日中番いで過し,営巣するようになる。
5.番い行動圏は重複し,特に冬の群れ行動圏のセンターでは著しい。優位の雄の番いは早く孤立し,群れ行動圏のセンターに対立するような位置をとる。おそくまでセンターにとどまり,そこで重複した行動圏を持つものは劣位の雄のものである。
6.はじめは同じ群れのメンバーと番い群をつくり,異る群れのメンバーとはたたかう。しかし,番いの孤立化が進むにつれて同じ群れのメンバーともたたかうようになる。番いが完全に孤立するのは共同のねぐらから巣の内部へ番いのねぐらを移した時からである。それは巣の外装が完成したあとである。
7.たたかい行動のピークは営巣期にあり,営巣期後半に交尾が行なわれる。エナガのテリトリアリズムは営巣期に最高となって完成する。その後,たたかいはずっと減少し行動圏も小さくなる。個体群内は社会的構造において安定し,次世代の生産が行なわれる。しかし実際には抱卵期以後,巣の破壊がはげしくなり,そのために再営巣があるために混乱する。
8.番いは行動圏内に高活動密度部を持ち,そこは隣接番いと決して重複しない。パトローリングはそのセンターから出てセンターへ戻る。その間隣接番いとのたたかいがある。また,隣接番いとしばしば対立する特定の数ヶ所がある。
9.巣の位置は必ずしも高活動密度部に関係しない。しかしそのセンターの内部か又は近くにある。それはブッシュの濃密な場所である。巣の位置は雄が紹介して雌が決定する。その時求愛や交尾前と同じ型のディスプレイを伴なう。
10.再営巣は前の巣の近くに行なうが,しばしば著しく離れ,隣接テリトリーを越えることもある。しかし前の行動圏にこだわる傾向があり,一方では,たとえ離れても冬の群れ行動圏を出ない。
11.手伝いは営巣期,抱卵期には現われない。育雛行動のみの手伝いである。独身者と繁殖に失敗した番いであって,後に家族群となり,冬季群のメンバーとなる。
12.番いのテリトリアリズムはルーズであるが,space outははっきりしている。番いのテリトリアリズムは冬の群れのテリトリイ内で現われ,その占有地域は冬の群れテリトリアリズムによって保証されている。

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