山階鳥類研究所研究報告
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日本におけるカラ類群集構造の研究
III カラ類の行動圏分布構造の比較
中村 登流
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1975 年 7 巻 6 号 p. 603-636

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抄録

この研究はカラ類に見られる同所性近縁種間の行動圏の構造と分布を比較し,その生態的分離を考察したものである。
1.調査地は中部日本の山岳地帯,海抜約1000mの地域で,人工的な混合林である。
2.調査地では5種(エナガ,シジュウカラ,ヒガラ,コガラ,ヤマガラ)が共存性で,この内の前種が,高い密度をもち,コガラは,低く,ヤマガラは,たった1ペアしかいない。
3.エナガとParusとの社会的構造は違っている。エナガは群れテリトリイを持つ群れユニットである。それは冬にグループディスプレイによって強調される。繁殖期にはペアユニットに変換される。一方,Parusはペアユニットであり,そのテリトリアリテイは繁殖期に,ソング活動とたたかい行動により強調される。冬には,そのテリトリアリテイは弱まりペアユニットは行動圏を拡張し,他のユニットと結びついて,群れになる傾向を示す。
4.冬をとおして,Parusのペアユニットは保たれ,暖い日には著しくなる。ペアユニットがもっとも強いのはコガラであり,群れる傾向はシジュウカラとヒガラに表れる。しかし,Parus属は,群れるものと,ペアを保つものは,中間型によってグレードをなしている。それは密度によっても変異する。そして,エナガとの間に中間型はない。両属の差は大きい。
5.種間関係の生態的分離は冬と繁殖期で異る相を示している。冬には林内の垂直的な層にあらわれ,繁殖期には林内の水平的モザイックにあらわれる。各種の行動圏の重複は著しい,しかし,採食場所は分れている。ペアユニットは資源を区分するのに重要なファクターである。しかし,このユニットは種間的に重複している。その混群は種間的に,採食場所を分けるのに有利であろう。
6.種間テリトリアリテイはない。コガラとヤマガラはシジュウカラとヒガラの分布域重複の縁の状態を示しているのに,その間に種間テリトリーは認められない。カラ類の幅広い重複分布は種間テリトリーを経過することなく,混群の中での相互の忌避によって生ずるのであろう。Parusの社会的模倣性が,エナガの群れユニットと接触を保たせるだろう。その接触部の近くで,忌避的に,生態的分離を生じさせる,と考えられる。

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