1.本論文は好適な生活場所の繁殖密度制限に関するオオヨシキリのテリトリーの機能について考察してある。調査地は宮城県仙台市郊外の蒲生海岸で行った。
2.調査地のアシ原は,アシの種の違いにより,Phragmites地域とRottboelia地域の二つにわけられる。Phragmites地域においては,Rottboelia地域に比べて,その地域に定住した雄の番形成の成功率と番の繁殖成功率が高く,さらに繁殖密度も一定で高い。それ故,Phragmites地域はオオヨシキリにとってより好適な生活場所と考えられる。
3.雄は4月下旬から6月上旬にかけて渡来し,次々にアシ原にテリトリーをもつ。雄の定住する過程には三つの相がみられる。まず,早く渡来した雄がPhragmites地域にのみ定住し(第1相),その後に渡来した雄は,PhragmitesとRottboeliaのどちらの地域にもテリトリーをもつ(第2相)。最後に,Phragmites地域の密度が最高に達した後で,遅れて渡来した雄がRottboelia地域にのみ定住する(第3相)。
4.Phragmites地域においては,テリトリーの平均面積は第2相の終りまで密度の増加に逆比例して減少し,第3相ではそれ以上縮小しない。
5.新たにテリトリーを形成しようとする侵入者は6月中旬まで観察される。これらの侵入者の数は第2相の後半に最高になる。Phragmites地域にも第3相まで侵入を試みる雄がいるが,これらの侵入者はPhragmites地域にテリトリーを形成できない。
6.雄はchasingによって侵入者を追い払い,そのテリトリーを防衛する。chasingの頻度は侵入者の数に比例して多くなる。しかし,Phragmites地域の雄のchasing行動は他の相よりも第3相で最も激しくなった。
7.それ故,Phragmites地域のテリトリーの平均面積はそれ以上縮小できない限界にまで達していて,遅れて渡来した雄はPhragmites地域の雄のテリトリー行動によって,Rottboelia地域に定住するのを強いられているものと考えられる。
8.したがって,オオヨシキリのテリトリー行動は好適な生活場所の繁殖密度を制限していると結論できるだろう。