1977 年 9 巻 3 号 p. 231-243
クマゲラ(Dryocopus martius martius)は日本では,これまで北海道にのみ生息するとされていたが,川口(1935)が本州北部の秋田県八幡平で1羽のクマゲラを捕獲し,本州にもクマゲラが生息することを確認した。このことは鳥類の地理分布を考察するうえで,きわめて貴重なものである。
川口(1935)のクマゲラ発見以後,本種は長い間,本州のどこにも発見されなかったが,地元の庄司国千代氏が1970年森吉山のふもとの太平湖近くで本種の巣を発見した。その後泉(1975)が庄司氏とともに森吉山のブナ伐採跡地で本種の雄個体を認め,数枚の写真に記録した。
その後著者等はブナ林及びその周辺の伐採跡地で本種の生態調査を行っている。特に,1975年4月から1976年10月にわたって,本種の採餌行動を記録した(Fig.3~Fig.7)。
更に,秋田県野鳥の会有志とともに,ブナ林中の調査を行い,クマゲラが冬期採食のため穴けた,顕著な食痕をブナ及びサワグルミで認めた。
以上の調査結果から,著者等は本州ではきわめてまれであり,学術的に貴重なクマゲラをいかにしたら保護出来,いかにしたら本種の生息環境を林業との関連のもとに保全出来るかを目下検討中である。