2011 年 49 巻 1 号 p. 22-31
大腸菌やサルモネラ菌などの細菌は,「べん毛」と呼ばれる繊維状の運動器官をスクリューのように高速回転させて水中を泳ぐことにより,栄養が豊富で生育に適した温度やpHの環境に集まることができる.べん毛繊維を回転させているのは,繊維の根元に細胞膜に埋まって存在する「べん毛モーター」と呼ばれる直径約45 nmの回転分子モーターである.べん毛モーターは,細胞膜を隔てて形成される水素イオン(プロトン)の電気化学的ポテンシャル差を1秒間に約300回転の高速回転に変換し,その回転方向は環境中の化学物質などに反応して瞬時に切り替わる.ここでは,プロトン駆動型細菌べん毛モーターの構造と回転機構について,最新の研究内容を含めて紹介する.