化学と生物
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解説
有機電解法の進展とペプチドおよび核酸誘導体の化学合成への応用
千葉 一裕
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2016 年 54 巻 7 号 p. 478-483

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抄録

有機電解法とは電極によって有機化合物の電子移動を引き起こし,生成した活性種の反応を制御する化学の一手法である.電極を用いた電子移動は,基質となる有機化合物から電子を奪う(陽極酸化),あるいは電子を与える(陰極還元)ものであり,酸化剤や還元剤を使わずに化学反応を開始することができる方法である(1).そのため,「試薬は電子」と表現されることもあり,環境負荷の少ない一つの方法として期待されている.また,電極表面で電子移動を引き起こすために通常は極性の高い溶媒中で解離する支持電解質を溶解させるが,これは電極表面に電気二重層を形成するために働く.電極に一定の電位を印加することによって形成された電気二重層内に有機化合物が入ると分子と電極の間で電子移動が誘起され,この過程を経て得られた活性種の化学反応が電極表面近傍または電極表面から離れたバルク溶液中で進行する.このように基質となる有機化合物の活性化過程が反応容器内の特定の場所に限定されていることは,均一系とは異なるさまざまな反応システムの構築が可能となることを意味する.また電極は外部から電圧を印加するため,外部からの機械的制御によって電子移動の開始,停止をコントロールできることも一つの特徴である.本稿では,筆者がこれまでに実施した有機電解法の特徴を活かした化学合成反応を中心に紹介し,その非天然型のペプチドおよび核酸誘導体の化学合成への応用について解説する.

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© 2016 by Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
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