2018 年 56 巻 10 号 p. 678-685
細胞は細胞膜により外界と隔てられ,細胞内はオルガネラ膜により仕切られている.生体膜ではさまざまな反応が制御され,疾患関連イベントも多く起こる.そのような生体膜の構造・機能をイメージするモデルに流動モザイクモデルや脂質ラフトモデルがある.しかし生体膜の重量にして約50%を占めるとされる膜脂質は,遺伝子に直接コードされていないため解析手段に乏しく,機能の理解が進んでいない.一方で,膜脂質は感染症治療薬の標的となっており,機能解明が求められている生体分子の一つである.ところが,いずれの観点においても,分子レベル,原子レベルでの機能理解は十分ではない.本稿では抗真菌剤であるアムフォテリシンB(AmB)をはじめとして,膜脂質を標的とするいくつかの天然有機化合物(天然物)について,その化学構造と作用機序について概説する.そして,そこから見えてくる今後の研究展開についても議論する.