抄録
心理技法フォーカシングの創始者として知られているユージン・ジェンドリンは、生涯、哲学研究を継続し独自の言語論を展開した。その特徴は、言語には、使用者に共通の一般的意味(普遍的側面)を生じさせる側面と、使用者個人に個別的意味を生じさせる身体感覚的側面があるとし、後者を個人の身体に暗在する感覚であるとした点である(言語の二面性)。彼は、細胞、植物、動物を含む生命プロセスを身体と環境の相互作用であるとした上で、身体が生き続けるプロセスを、環境変化にともなう「不在」の「充足」であるとモデル化し、これを暗在的複雑性(インプライング)への生起と表現した。彼は、「言いたい感じ」から言葉が立ち上がる過程もその一環であるとした。さらに論理と暗在するものとの間で機能する「パターンそのもの」の概念を提唱し、「二重化」(三重化)をモデル化した。思考において論理と身体感覚的側面の相互作用を活用する重要性を説き、思考法TAE(Thinking At the Edge)を提案した。