日本の沿岸域は,幾度となく津波による壊滅的な被災を被ってきた.地震の発生は準周期的であることから,過去の津波被災状況を調査することは極めて重要である.本研究では,津波浸水域の客観的かつ高精度な調査方法として,土壌中の化学物質を用いた調査法を提案し,2010年チリ津波の現地調査においてその有効性を検証した.津波の浸水域内外の土壌を分析した結果,浸水域内の土壌には多量の水溶性イオン(Na+,Mg2+,Cl-,Br-,SO42-)が含まれていた.これらのイオン含有量を用いて,津波浸水域の判別分析を行った結果,Na+,Mg2+,Cl-,Br-,SO42-,および電気伝導度を用いた場合に90%以上の高い判別的中率が得られた.土壌および海水中のイオンの含有量を検討した結果,Br-,Cl-,Na+が津波浸水域の判別に適していると考えられた.