津波浸水想定の際,数値シミュレーションは有効な手段となり得るが,陸上における土地利用や市街地の複雑さは粗度として扱われ,局所的な浸水深や浸水範囲の精度と再現性に関して検証が行われていない.本研究では,津波再現水槽と沿岸市街地模型を用いて浸水実験を実施し,浸水深や浸水範囲,波圧を計測し,シミュレーション結果との比較を通して,市街地の複雑な地形が遡上に及ぼす影響について考察した.実験に当たっては,津波再現水槽で対象とする任意の複雑な津波波形を再現し造波する方法を確立した.津波計算を行う際に建物の密集度を考慮することの重要性や,津波の遡上過程において,平均地盤高からの比高が高く幅が広い線的構造物は,粗度ではなく地形として取り扱う必要があること,および,津波波圧算定式は,多方向から浸水する場所では過小評価になる可能性があることを示した.