2019 年 75 巻 2 号 p. I_667-I_672
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波によって福島第一原子力発電所が被災し,大量の放射性核種が放出された.大気中に放出された核種の大部分は事故直後の風の影響で陸域に沈着したが,原発近傍の河川流域に沈着した核種は,懸濁態として出水毎に海域に放出され,事故後も海洋底生生物系に影響を与えている.本研究では,高濃度の放射性核種が河道に堆積していたことが知られている福島県新田川を対象に,台風201326号に伴う出水イベントに着目し,台風通過直後に実施された海底堆積調査結果と,高解像度海洋モデルを併用することによって新田川起源の懸濁態放射性核種の海底での堆積状況を評価した.さらに,モデルによる底面せん断応力,懸濁質輸送,土砂収支などを解析し,観測された堆積層137Cs分布の形成機構に対する合理的な説明を行った.