2020 年 76 巻 2 号 p. I_127-I_132
温暖化シナリオA1Bの想定の下,強大化する台風は沿岸地域に暴風だけでなく,高潮も発生させる.高潮の浸水予測計算の精度を向上させるためには,風から海面に作用するせん断応力を表すための海面抵抗係数を正しく評価する必要がある.しかし,過去に発生した台風の風速で検討されてきた海面抵抗係数のバルク式が,強大化する台風によって発生する暴風にも適切なのかは疑問である.このような現状から,より多くの温暖化時における台風の観測データが要求される.
本研究では,沖縄県西表島網取湾において,4年間にわたる長期観測で得られたデータを基に,温暖化時の強大台風に匹敵する台風下での海水流動の特性について検討する.その結果,網取湾を通過する台風経路の違い,すなわち,25m/sを越える風速を持つ台風であっても湾内への風向の違いによって,水面表層から下層までの流速の発達および下層への運動量輸送過程に明確な違いがあることを明らかにした.