2024 年 26 巻 p. 1-14
本稿では,私立大学の補助金申請行動を社会学的新制度論によって解釈することを通じて,各種改革に応答する大学の“本音”と“建前”のありようの一部をデータから照射することを試みた。そのために,私立大学が補助金申請行動を選択するさいの認識について,私立大学等改革総合支援事業タイプ1を事例として,社会学的新制度論の嚮導概念である「脱連結」と「同型化」を援用し,申請行動とのギャップを統計的因果推論から実証した。結果からは,私立大学等改革総合支援事業タイプ1に対して,表向きは政策的要請に沿いつつ,実質的な活動は従来どおりとする「脱連結」は行われておらず,むしろ従来の活動に合致する場合に,申請行動を選択していることがわかった。また,政策的要請に黙従する「同型化」による申請行動もなされていなかった。よって,私立大学は相応に行動選択の余地をもっていると考えられる。ただし,政策的介入に対して身の丈に合う応答しかできないとすれば,各種補助金事業は大学間の相対的な位置を変更する機能をもちえず,かえって歴史的経路依存を維持・強化したり,組織の行為能力を超えるような取組みが受容されがたかったりする可能性がある。