2024 年 26 巻 p. 31-49
博士学位を授与する大学院という既存の養成ルートを経ない実務家教員の登用は,古典的な専門職としての大学教員のあり方に変容を促す契機になりうるものである。そうした変容の兆候の有無を探るべく,本稿は,実務家教員を目指す人たちの属性と,その人たちが抱いている大学教員の仕事に対するイメージを,質問紙調査によって検討した。分析の結果,調査時点において実務家教員を目指す人たちの1つの典型像は,「バブル崩壊前に学生時代を過ごしてから就職し,長期不況に直面しながらも,社会的経済的地位の観点では一定の成果を挙げた高学歴の男性」というものであり,教育志向が強いということが明らかになった。大学教員の仕事に対するイメージは多岐に渡るが,本稿が持つ問題意識という観点から見て特筆するべき知見は,教育と研究の専門職である大学教員が持つべき教育能力が大学院において如何に育まれ,教育現場でどのように成長しているのかという問いが,実務家教員を目指す人たちから投げかけられているということである。