海の研究
Online ISSN : 2186-3105
Print ISSN : 0916-8362
ISSN-L : 0916-8362
2017 年度日本海洋学会岡田賞受賞記念論文
植物プランクトン動態および生元素循環に対する海洋酸性化の影響評価
杉江 恒二
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 27 巻 3 号 p. 125-140

詳細
抄録

大気の二酸化炭素濃度(CO2)の増加に起因する海洋酸性化は,世界中で進行している環境変化である。この環境変化が多くの生物に影響を及すことは明らかになってきたが,海洋生態系の基盤を成す植物プランクトンに及す影響,特に海洋酸性化とそれ以外の要因との複合影響については,ほぼ未解明である。そこで著者らは,鉄制限海域であるベーリング海海盆域においてCO2と鉄の操作実験を行った。さらに,海水中のCO2と生物に利用可能な鉄を独立させて任意の濃度に制御する実験系を新規に確立し,海洋酸性化と鉄濃度の相互作用が珪藻の増殖過程と生元素動態に及す影響について調査した。一連の研究によって,海洋酸性化が生物に利用可能な鉄濃度を減少させる可能性があること,および,CO2と鉄の濃度変化のそれぞれが,個々の生元素動態に異なる影響を与えることを明らかにした。本稿では,著者らのこれまでの研究を概説するとともに,近年の海洋酸性化に関する研究動向と今後の課題についても紹介する。

著者関連情報
© 2018 日本海洋学会
次の記事
feedback
Top