海の研究
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2019年度日本海洋学会岡田賞受賞記念論文
黒潮・対馬暖流域における栄養塩動態を中心とした低次生態系の解明
児玉 武稔
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2020 年 29 巻 2 号 p. 55-69

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抄録

日本近海域の環境の解明は,海洋と海洋資源を持続可能な形で利用する上で必須である。本稿では,黒潮・対馬暖流域において,日常的に観測されている栄養塩濃度ならびに動物プランクトン個体数に着目した低次生態系に関する筆者の研究を紹介する。まず,栄養塩環境について黒潮域,東シナ海,日本海対馬暖流域の各海域で異なる特徴の栄養塩環境が存在していた。四季を通じた黒潮の観測からは,下層からの栄養塩供給の時空間的な違いが海域の栄養塩濃度の違いを引き起こしていた。一方,黒潮上流域や対馬暖流域の夏季の観測からは,水平移流の重要性が示された。また,アンモニウム塩濃度をナノモラーレベルで検出する高感度分析法を開発し,動物プランクトンの窒素排泄の研究に応用した。次に,日本海対馬暖流域の動物プランクトン群集動態の解明に取り組んだ。春季の沿岸域では対馬暖流の沿岸分枝による水平移流がプランクトン群集の空間的な違いを形成していた。夏季の日本海南西部では水温の上昇とともに尾虫類の現存量が大きくなり,さらに尾虫類を利用する生態系が形成されていた。これらのことは貧栄養で均質的と考えられてきた黒潮・対馬暖流域においても,海域・季節毎の物理・化学環境の違いに駆動される異なる低次生態系が存在することを示している。

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© 2020 日本海洋学会
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