海の研究
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総説
海洋学の10 年展望2021:大気海洋境界
岩本 洋子 相木 秀則磯口 治大林 由美子近藤 文義近藤 能子西岡 純
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2021 年 30 巻 5 号 p. 199-225

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抄録

海洋は大気と熱,気体,粒子を交換することで,地球の気候に大きな影響を与える。海洋上の大気境界層における物理・化学・生物過程は,海表面でのCO2 の吸収や雲の生成を介して地球大気の放射収支へ影響する。これはさらに気温・降水・日射の変化を経て海洋にフィードバックをもたらす。気候問題のみならず,台風などの極端現象や波浪の観測・予測を通して,大気海洋境界は人間生活と直接的に関わっている。本稿では,大気と海洋の境「界面」にとどまらず,一次生産の場となる有光層から対流圏までの鉛直的に広い領域とその衛星観測を対象として,次の10年で取り組むべき研究課題を論じた。大気からの栄養塩沈着について,窒素,リン,鉄を含むエアロゾルの沈着は一次生産に寄与するのか? 海表面のマイクロレイヤーが大気海洋界面として物質循環に果たす役割とマイクロレイヤーの物性をコントロールする要因は? 温室効果気体や海洋生物起源気体の交換量を精緻化するために何が必要か? どのような海洋性エアロゾルが雲形成に寄与し放射収支を変化させ得るのか? 波浪に関わるプロセスについて,物質やエネルギーの交換量を左右する時空間分布を把握するために必要なアプローチは何か? これらの問いに答えを出し人類が自然環境と共生するために必要な研究,ならびに日本海洋学会と隣接学会との連携について,次の10年を展望する。

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© 日本海洋学会, 2021年
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