円管内を層流で流れるエアロゾル粒子の通過率を評価するため,粒子のブラウン運動を再現できるランジュバン動力学方程式によって粒子の軌跡を計算した.通過率の計算では,粒子の侵入距離として円管入口から入射した粒子が壁面に到達するまでに移動した軸方向最大距離(zMTD)と,粒子が壁面に沈着した点の入口からの軸方向距離(zDD)の二つの基準を設けた.これにより,古典的な研究と同様に,ある円管断面における粒子の全流束と円管入口での全流束の比として定義されている粒子の通過率と,粒子の壁面への沈着流束の分布の両方の評価が可能となった.Péclet数が1000より高い条件では,zMTDとzDDの差はほとんどなく,zMTDの分布から求めた通過率は,流れの方向の粒子の拡散を無視して移流–拡散方程式を解析的に解くことで得られた従来の通過率とよい一致を示した.Péclet数が1000より低い条件では,粒子の等方的なブラウン運動の性質が顕著になり,zMTDがzDDより大きくなる粒子の割合が増加した.zMTDの分布から得られた通過率は,流れの方向の粒子の拡散を考慮した移流–拡散方程式より得られた通過率と非常によい一致を示したが,zDDの分布より得られた粒子の沈着流束の分布と,通過率の傾きから得られた沈着流束の分布は一致しなかった.そのため,低Péclet数での粒子の輸送と沈着現象を評価するには,粒子の軌跡を直接計算する手法が有用であると考えられる.