化学工学論文集
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[特集]未来を担う環境化学工学
パリ協定と気候変動対策技術
黒沢 厚志 加藤 悦史杉山 昌広増田 耕一
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2017 年 43 巻 4 号 p. 171-177

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抄録

気候変動研究の知見は国際政治に影響を与えた.気候変動枠組条約の京都議定書は先進国に温室効果ガス排出削減を義務づけた.一方でパリ協定は全締約国が削減に参加することを求めている.気候変動対策技術は,温室効果ガス排出を削減する緩和策,気候変動の影響を軽減する適応策,および気候工学的対策に分類される.世界の研究機関では,統合評価モデルを活用して,新技術の導入可能性や温室効果ガス排出経路などの緩和策シナリオ分析を実施している.モデル試算結果インベントリは気候変動に関する政府間パネル第5次報告書のメタ分析に貢献した.エネルギーシステムの検討には,需要と供給の両方の視点が含まれるべきである.たとえば,年間エネルギー消費がほぼゼロであるネット・ゼロ・エネルギー建築物が新しいコンセプトとして提案されており,低CO2エネルギーキャリアと組み合わせれば,民生部門のゼロエミッションにつながる可能性がある.各国の国別目標を積み上げても,パリ協定の長期温度目標達成に必要なレベルに達しない可能性が高い.人為的気候介入である気候工学と呼ばれる対策が一部の科学者により検討されている.気候工学のオプションには,CO2除去,および太陽放射管理があり,気候–エネルギーシステムモデリングや社会科学研究の分野で具体的評価が進められている.今後の化学工学に関する研究,開発,実用化は,ほとんどすべての技術的な気候変動対策において重要な役割を果たす.

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© 2017 公益社団法人化学工学会
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