2023 年 49 巻 3 号 p. 79-87
リン酸水素二ナトリウム12水塩は室内の空調や床暖房への適用が期待される潜熱蓄熱材である.しかし,蓄熱状態にあるその融液は融点以下の温度に冷却されても容易に核化しないので,蓄えた潜熱を融点で放熱する潜熱蓄熱操作に支障が生じる.この過冷却の問題を解決するため,一般に発核剤の添加がおこなわれるが,これまでの多くの開発研究にもかかわらず,その核化促進能力は不十分なものであった.本研究では,発核剤として機能するための必要な物性条件の抽出を目的とし,添加試薬をナトリウム塩に固定して,それらの核化促進能力の強さを熱サイクル実験によって調査した.促進能力の強さを過冷却比として定量化し,陰イオンの酸解離定数との関係を調べた結果,12水塩を構成するリン酸一水素イオンの酸解離定数より大きい解離定数を有する陰イオンでは,その数値が大きいものほど促進能力が強いことがわかった.また促進効果の発現メカニズムとして,添加した陰イオンの塩基的作用により12水塩融液中のイオン環境が不安定化し,核化のエネルギー障壁が減少したことが考察された.