1999 年 47 巻 12 号 p. 832-835
酵素は生体内ではただ1つの化合物にしか作用しないという「鍵と鍵穴」説は広く信じられてきたが, 合成基質にも作用することがわかってきて, 有機化学の触媒として利用されている。とはいっても, 酵素は光学活性体であり, しかも特有の形をした活性部位に基質を取り込んで反応を触媒するので基質の立体配置や形を識別して, 選択的反応を行うことができる。類似の官能基の区別, ラセミ体の立体配置の識別, 光学活性体の創製等を環境調和型の温和な条件下で進行させる酵素反応の特徴をその選択性の視点から概観する。