日本東洋医学雑誌
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臨床報告
越婢加朮湯が奏効した乾性咳嗽を伴う漿液性膝関節炎の一例
星野 綾美巽 武司佐藤 浩子奥 裕子伊藤 克彦田村 遵一小暮 敏明
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2008 年 59 巻 5 号 p. 733-737

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抄録

今回,われわれは漿液性膝関節炎と乾性咳嗽に対し越婢加朮湯が奏効した一例を経験したので報告する。症例は37歳,男性。特記すべき既往歴なし。主訴は右膝関節腫張と乾性咳嗽。X年10月頃から特に誘引なく右膝の疼痛と腫張が出現し,同年10月当院整形外科を受診。関節穿刺にて多量の漿液性の関節液が排液された。血清CRP3.4mg/dl,赤沈76mm/hの炎症所見を認めたが,身体所見,検査所見から関節リウマチは否定的で,膝関節造影MRI検査上,色素性絨毛結節性滑膜炎を示唆する所見も認められず確定診断は困難とされた。NSAIDs内服加療にも関わらず膝関節腫張が遷延したことに加えて,同年12月末の感冒罹患を契機に,寒冷刺激で出現する乾性咳嗽を自覚するようになったため,X+1年1月当院総合診療部を受診した。診察所見や胸部レントゲン上明らかな異常を認めず,感冒後の気道過敏が考えられた。膝関節腫張と咳嗽に対し,和漢診療を希望されたため,同日から越婢加朮湯7.5g/日を投与した。内服1カ月後には膝関節腫張は消失,咳嗽はほとんど自覚しない程度に改善し,CRP陰性となり,内服3カ月で投薬中止となった。西洋医学的には原因不明の漿液性関節炎であったが,和漢診療学的には陽実証の水滞と考えられ,越婢加朮湯証が奏効した。

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© 2008 一般社団法人 日本東洋医学会
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