2010 年 61 巻 7 号 p. 938-955
『医界之鉄椎』の初版本が発刊されたのは明治43(1910)年であり,今年は正に100周年である。この警世の書は医学が専門分化の道を辿り統合的な理解が困難となった医療界の現状を憂え,漢方こそが統合的治療の根幹に据え置かれるべきものであることを主張した医療論である。この初版本に対して,論理だった反論を展開した人物が存在した。それが平出隆軒氏である。平出氏は奇しくも当時の名古屋医療界の泰斗である。彼は『医界之鉄椎』を熟読し,これに反論(一部同意)を加えた見識と品格を高く評価したい。この平出隆軒氏の反論を輯録した第二版は大正4(1915)年に出版された。平出隆軒氏の指摘した事項は今日の我々にも突きつけられた刃である。そこで,平出氏の指摘した課題を整理し,私共がその課題にどのように取り組んできたか。将来に解決を待たなければならない課題は何かについて論じた。