日本東洋医学雑誌
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会頭講演
21世紀の漢方医学
—生活習慣病予防治療の新しい可能性を求めて—
佐藤 祐造
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2011 年 62 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

21世紀の今日,医学,医療の現場においては,根拠に基づく医療(EBM)が求められている。また,EBMに基づく創薬の必要性が求められており,医療の各領域において新薬の開発が行われている。
糖尿病と漢方:糖尿病は近年急激に増加しつつあり,2007年の厚生労働省の統計によれば,直近の10年間で29%増とされている。また,糖尿病合併症も増加しており,腎症に起因する人工透析導入は約16,000人,その他,糖尿病神経障害によるしびれ,冷感,疼痛を訴える症例も多く,糖尿病発症,合併症への対策は糖尿病臨床上最も重要なポイントとなっている。
糖尿病は「金匱要略」での“消渇”に相当し,八味地黄丸が有効処方とされている。
1984年私共は「牛車腎気丸」が糖尿病神経障害に由来するしびれに有効であるとする臨床成績を本邦で初めて報告した。また,牛車腎気丸(G群)とメコバラミン(M群)とのランダム化比較試験を実施し,しびれに対する自覚症状改善度がM群よりG群で有意に大である事実を明らかにした。
インスリン抵抗性と漢方:インスリン抵抗性は2型糖尿病やメタボリックシンドロームの成因として重要な役割を果たしている。インスリン抵抗性に及ぼす漢方薬の効果を正常血糖クランプ法と分子生物学的手法を用いて解析を行った。
1)動物実験成績:牛車腎気丸(800mg/kg)はSTZ糖尿病ラットのインスリン抵抗性を改善させるが,その発現にはNOが関与している。また,STZ糖尿病腓腹筋のインスリン受容体(IR–β)のチロシンリン酸化,インスリン受容体サブストレイト1(IRSndash;1)の蛋白量,チロシンリン酸化が関与している可能性も示唆された。
2)臨床的検討成績:2型糖尿病患者に牛車腎気丸(7.5g/日)を1カ月経口投与したところ,HOMA‐R(インスリン抵抗性)は有意に低下した。投与中止1カ月後には投与前と同一レベルとなった。正常血糖クランプ法(インスリン注入量400mU/m2/分)でもグルコース注入率(GIR)は有意に増大した。
すなわち,中国の古典「済生方」に記載された老人のしびれ,排尿困難等に使用されてきた牛車腎気丸について,私共は糖尿病神経障害に有効である事実を,また,2型糖尿病予防・治療に有用であるとの新たな適応を見出した。今後もこのような漢方薬の領域における「創薬」を行いたいと考えている。

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© 2011 一般社団法人 日本東洋医学会
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