日本東洋医学雑誌
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論説
日本漢方の特徴
寺澤 捷年
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2012 年 63 巻 3 号 p. 176-180

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抄録

ここ数年,東アジア伝統医学の領域に重要な問題が起こっている。国際標準化(ISO/TC249)の動きである。これは東アジアの伝統医学を中医学に統一することを意図している。確かに韓国と日本の伝統医学は古代の中国医学を源としているが,それを受容した後に各国で大きな変革を遂げており,現在の中医学とは大きく異なっている。本論文は日本漢方と中医学の相違を疾病の認識法の観点から明らかにした。漢方医学は疾病を構造主義的に認識するが,他方,中医学は五行論などの要素還元論に依っている。漢方医学は方証相対論を基本としており,各々の方剤の性質は腹診を重視する臨床経験による暗黙知として獲得される。その結果,証はこれに対応する最適の方剤名として,たとえば葛根湯証として認識される。これが日本漢方における病名表記である。言い換えると,漢方医学では要素還元論は採用しないのであって,選択された方剤の説明の材料として限定的に用いられる。つまり,両者は哲学的方法論において根本的に異なっており,これを一つの国家の名称を冠した国際標準にすることには同意できないのである。

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© 2012 一般社団法人 日本東洋医学会
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